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腸内細菌が遺伝子の発現を制御する

 動物の体を構成する細胞の持つゲノム配列は一部の特殊な細胞を除き、すべて同じです。しかし動物は様々な種類の細胞から成り立っており、それぞれの細胞は異なった働きをしています。これはゲノム配列の変更を伴わない、エピジェネティックな制御と呼ばれる制御によって遺伝子の発現が制御されることによって起こります。近年の研究で腸内細菌が腸内細胞に対してこのエピジェネティックな制御を行い、その遺伝子発現を変化させていることがわかってきましたが、その詳しい機構に関しては多くの事がわかっていません。

  そこで研究チームは、通常の細菌叢を持つマウスと無菌マウスから腸上皮細胞を採取し、エピジェネティックな制御において重要な役割を持つHDAC3の活性を調べました。すると通常の細菌叢を持つマウスでより高いHDAC3活性が検出されました。さらにその詳しい制御機構について詳しく調べるために、それぞれのマウスの腸上皮細胞で発現している遺伝子を比較しました。その結果通常の細菌叢を持つマウスで、IP3の存在下で発現する遺伝子が高発現していることがわかりました。そこで、腸内細菌によって代謝されるとIP3が産生されるフィチン酸塩とIP3について、それぞれが腸上皮細胞のHDAC3活性に与える影響について調べると、その両方でHDAC3活性の上昇が検出されました。

  さらに研究チームは、腸内細菌の有無が影響を与えることがわかっているDSS誘発性疾患について、フィチン酸塩がどのような影響を与えるのか調べました。するとフィチン酸塩を投与したマウスはコントロールマウスと比べて多くが生き残り、腸上皮細胞の増殖が促進され病態が改善することがわかりました。

 今回の研究では、腸内細菌がフィチン酸塩を分解しIP3の濃度を上昇させ、それによってHDAC3活性が上昇し宿主遺伝子の制御を行うという、腸内細菌が宿主細胞へのエピジェネティックな制御を行う機構を示しました。さらに、このフィチン酸塩代謝を介したエピジェネティックな制御がDSS誘発性疾患の改善をもたらすことがわかりました。このDSS誘発性疾患は潰瘍性大腸炎と類似する病態を持つことが知られており、今回の発見は潰瘍性大腸炎の新たな治療薬の開発につながるかもしれません。

紹介論文:Wu et al., Nature 2020

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