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腸内細菌が腸のはたらきと骨の形成を制御する

 私たちの血液は常に一定に保たれています。それは血管に発現する機械刺激受容体が血圧の変化を感知し、それを細胞内に化学シグナルとして伝達することで、血圧を一定に保つように機能しているためです。このような機械刺激を受容する受容体として、2010年にPiezo1(ピエゾ1)という受容体にその機能が発見されました(論文1)。Piezo1は血管のみならず腸でも発現していますが、腸でのはたらきは不明でした。

 そこで、自然科学研究機構生理学研究所の丸山健太医師らを主とする研究グループは、Piezo1をマウスの腸管上皮細胞でのみ欠損させたマウスを作成し、このマウスの蠕動運動や骨の成長を観察しました(論文2)。するとこのマウスでは(1)骨の重量が増加すること、(2)腸の蠕動運動が低下すること、(3)薬剤性腸炎症に耐性を示すこと、を見出しました。先行研究から、これらの現象を説明するメカニズムとして、セロトニンホルモンに注目しました。そこで、腸管上皮特異的Piezo1欠損マウスにセロトニンを投与したところ、骨量・腸蠕動・薬剤性腸炎は野生型と同程度に回復しました。つまり、Piezo1シグナルは、腸管上皮細胞からセロトニンを産生する中軸機構であることがわかったのです。追加の実験から、不思議なことに、マウスは機械刺激以外の刺激によってセロトニンを産生させることが分かりました。そこで、マウスの糞便中に含まれるDNA, RNA, タンパク質を調べたところ、RNAがPiezo1を活性化することを突き止めました。つまり、腸内細菌由来のRNAがPiezo1を介してセロトニンを誘導し、骨量や蠕動運動、腸炎症を制御することを発見しました。

 今回の研究では、腸管上皮に発現するPiezo1という機械刺激受容体が、腸内細菌のRNAを認識し、骨形成を抑制するセロトニンを産生させるという新たな機構を発見しました。今後、さらに研究が進展することで、腸内細菌による骨量制御というまったく新しい骨代謝調整機構が提唱されるかもしれません。我々の体内に生息する大量の腸内細菌は、まだまだ未知の作用がありそうです。

紹介論文:
論文1:Coste et al., Science 2010
論文2:Sugiyama et al., Cell 2020

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