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線虫の行動を操っているのは腸内細菌?

 私たちのお腹の中には多種多様な腸内細菌が定着しており、私たちと腸内細菌は共生関係にあると考えられています。腸内細菌は私たちが食べたものを栄養として食べる一方、私たちが消化できない物質を代わりに分解してくれる、持ちつ持たれつの関係にあるからです。 しかし今回、Brandeis大学の研究チームから、線虫(宿主)を操る腸内細菌の発見が報告されました。

 線虫とは、土壌中に生息する数ミリ程度の線形動物であり、実験室で育てるときは通常OP50と呼ばれる大腸菌をエサとします。また、線虫は幾つかの化学物質に対して化学走性を示すこと、特に揮発性物質オクタノールに対しては強い忌避行動を示すことが先行研究から知られています。

 本研究チームは前述のオクタノール忌避行動に着目し、線虫が食べるエサがこの忌避行動に影響を与えるのかについて調べました。すると、OP50をエサとする線虫ではオクタノール忌避行動を示すのに対し、プロビデンシア菌JUb39をエサとする線虫ではこの忌避行動が有意に弱まることを発見しました。また、JUb39は線虫の腸内で定着していること、定着したJUb39が多いほど線虫の忌避反応減少が強化されることを突き止めました。

 そもそも線虫のオクタノールへの忌避行動には線虫自身が体内で合成するオクトパミンが関わっていることが先行研究から報告されています。そこで筆者らは、JUb39の代謝産物の中にオクトパミンまたはその前駆体があり、線虫の行動に影響を与えているのではないかと考えました。この予想は的中し、JUb39はオクトパミン前駆体であるチラミンを合成し、線虫のオクタノール忌避行動に影響を与えていることを発見しました。加えて筆者らは、全ゲノムシークエンスから、チラミンを合成する遺伝子の同定まで行っています。

 腸内細菌と宿主の関係については多くの研究がありますが、本論文では、腸内細菌の代謝産物が線虫の行動に影響を与えたモデルが報告されました。もしかすれば線虫の系だけでなく、私たちも腸内細菌の影響を受けているのかもしれませんね。

紹介論文: O'Donnell M.P. et.al, Nature 583, 415-420, 2020

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