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胃バイパス手術による血漿中インスリン濃度上昇のメカニズム

胃バイパス手術とは胃を切除してそこに小腸をつなげる手術で、主に海外で肥満の治療に広く用いられています。この手術は患者の食事後の血漿中インスリン濃度を上昇させる事が知られており、インスリン不足が特徴の2型糖尿病の劇的な改善をもたらします。今回の論文では、胃を切除したことによる消化管内での食物輸送の変化が血漿中インスリン濃度の上昇と関連していることを報告しています。

まず筆者らが注目したのがインスリンの分泌を促進することで知られるホルモンGLP-1です。胃切除手術を行ったヒトとマウスに対して、ヒトにはGLP-1Rアンタゴニストを、マウスには抗GLP1-R抗体を投与し、経口ブドウ糖負荷試験を行ったところ、血漿中インスリン濃度が減少しました。これは血漿中GLP-1濃度の上昇が血漿中インスリン濃度の上昇を引き起こしていることを示しています。

次に筆者らは胃バイパス手術を行った患者の血漿中GLP-1濃度の増加が、手術によってGLP-1を分泌する胃腸内分泌細胞の分泌量や分泌物が変化したために起こっていると考え、手術前後のヒトとマウスで分泌物質の種類や量を調べましたが、優位な変化は見られませんでした。

最後に筆者らは胃切除手術を行ったマウスに蛍光色素を混ぜたエサを与え、血漿中GLP-1濃度が最も上昇する7分後の時点で腸のどこまで栄養素が到達しているかを調べました。手術を行ったマウスではそうでないマウスに比べてより遠位まで栄養素が到達しており、そしてそのスコアは血漿中GLP-1、PYY、GIP濃度と相関を示しました。この結果は、栄養素の吸収が腸の胃腸内分泌細胞の多い遠位にシフトすることによって、より多くの胃腸内分泌細胞がGLP-1などを分泌したことを示しています。

これらのことから胃バイパス手術を行った患者の血漿中インスリン濃度の上昇は、胃を切除したことによる栄養素輸送の変化によってより多くの胃腸内分泌細胞がGLP-1を放出したために起こることが明らかになりました。胃バイパス手術は肥満に対する有効な治療手段であり、胃バイパス手術患者に関する代謝分野の研究は、新しく効果的な治療薬の開発につながるかもしれません。

紹介論文: Larrafufile P et al., Cell Reports 26, 1399-1408, 2019

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