トピックス

結核菌による咳の誘発の分子メカニズム

結核菌は肺に感染することで肺結核という病気を引き起こす細菌です。肺結核の主な症状として持続的な咳が見られますが、それは結核菌の肺への感染が原因なのか、それとも結核菌の産生する咳反射を誘発する分子が原因なのかは不明確なままでした。咳は病原体の主要な伝染方法であるため、咳反射の誘発メカニズムの解明は感染症の抑制に重要な役割を果たします。

これまでの研究では、咳反射の開始に肺を神経支配する侵害受容ニューロンの活性化が関与していること、そして末梢神経上の受容体に作用する分子を産生する様々な細菌種が見つかったことが報告されていました。これらのことからアメリカの研究グループは、結核菌が咳反射を誘発する侵害受容ニューロンの活性化分子を産生するのではないかという仮説を立てました。

研究グループは結核菌の有機抽出物によって、in vitroにおいてヒト及びマウスの侵害受容ニューロンの細胞内Ca2+濃度が上昇すること、in vivoにおいてモルモットの咳をした数が有意に増加することを確認しました。次に、結核菌の細胞壁を構成するいくつかの脂質のうち、SL-1という糖脂質のみがヒト及びマウスの侵害受容ニューロンを活性化することと、SL-1を合成できない結核菌の遺伝子欠損株では侵害受容ニューロンの活性化が起こらないことを発見しました。また、SL-1はカプサイシンの標的であるTRPV1という受容体が発現したマウスのカプサイシン応答性ニューロンを活性化できるが、カプサイシン非応答性ニューロンは活性化することができないということが分かりました。最後に、SL-1によってモルモットの咳をした数が有意に増加することを確認しました。

これらの結果から、肺結核では結核菌のSL-1がTRPV1を介して侵害受容ニューロンを活性化することで、咳反射を誘発するという分子メカニズムが提唱されました。今後、咳の誘発に関する分子メカニズムを基に咳反射の抑制剤を開発していけば、ワクチンのない呼吸器病原体であっても感染の拡大を大幅に抑え込むことができるようになるかもしれません。

紹介論文: Ruhl et al., Cell 181, 293-305, 2020

▲TOPへ戻る