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相分離がアクチンシグナルを制御する

近年生命科学で話題になっている現象に「相分離」があります。従来細胞質ではタンパク質や核酸などが均一に分布しており、脂質二重膜に覆われた細胞内小器官(オルガネラ)で特定のはたらきが起こっていると考えられていましたが、実は細胞質の中でも、特定の物質が高い濃度で密集し、膜のない液滴(ドロップレット)として分離した構造が多数見られます。こうした構造を取りやすいのは、RNA(リボ核酸)などの巨大な帯電した分子や、天然変性タンパク質と呼ばれる特定の構造を取らないタンパク質です。相分離したドロップレットの内部では、細胞質に比べて非常に高濃度のタンパク質が存在するため、特定の酵素反応が急激に進むという特徴があります。現在、細胞内のシグナル伝達はこの相分離によって制御されていることが明らかになりつつあります。

今回テキサス大学のMichael K Rosen博士らの研究チームは、細胞の形を作り出す細胞骨格の一種アクチンの制御に相分離がはたらく仕組みを解明しました。細胞膜上のタンパク質ネフリン、ネフリンと相互作用するタンパク質Nck、さらにNckと相互作用するタンパク質WASPを、人工的に作成した脂質膜に混ぜ合わせたところ、ネフリン・Nck・WASPが脂質膜上で集合体(クラスター)を形成しました。また、WASPはArp2/3というタンパク質と相互作用し、Arp2/3がアクチンの重合を促します。そこで、先ほどの脂質膜にさらにArp2/3とアクチンを混ぜ合わせると、ネフリン・Nck・WASPのクラスター内では、クラスター外に比べてアクチンが早く重合することがわかりました。

さらにWASPの動態を詳しく観察すると、クラスター内ではWASPの動きがゆっくりになっていました。そして、WASPの動きはNckの濃度に依存しており、動きが最も遅くなる最適な濃度があることもわかりました。実際の細胞では、細胞膜上に様々なNck濃度のクラスターが存在し、やはりある濃度でNckが存在するクラスターではWASPの動きが遅く、アクチンが早く重合していました。

以上の結果から、細胞の形を決めるアクチン骨格が細胞膜でのタンパク質の相分離によって制御されていることがわかりました。今後、ほかの様々な細胞内シグナルにも相分離が重要な役割を果たしているのか、さらなる研究が俟たれます。

紹介論文: Case, et al., Science, 363, 1093-1097, 2019

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