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腸内細菌が私たちの遺伝子に変化を与える

私たちの身体を構成する細胞は、全て同じ遺伝子のセットを持っています。それにも関わらず、私たちの身体に多くの専門的な機能を果たす部位がたくさん存在するのはなぜでしょうか。

その答えの一端には、“エピジェネティクス”があります。“エピジェネティクス”とは、「DNAの塩基配列の変化は伴わないが、細胞分裂後も継承される遺伝子発現の変化を研究する学問」です。言葉では難しいかもしれませんが、同じ遺伝子のセットを持っているのに、後天的な理由で遺伝子の発現に変化が現れる(胃の細胞と皮膚の細胞では形も働きも違ったり、一卵性双生児なのに顔が全く同じではなかったり…)、ということです。その後天的な理由の具体例に、DNAのメチル化修飾やヒストンのアセチル化修飾が挙げられます。

今回、Hebrew大学が出した論文で、このエピジェネティックな変化の1つであるDNAメチル化が腸内細菌の有無に関わっていることが証明されました。腸内細菌を有するマウス(CNVマウス)と、生まれつき無菌状態で育てたマウス(GFマウス)でDNAのメチル化レベルを比較すると、GFマウスにおいてメチル化レベルが有意に高いことが分かりました。DNAはメチル化修飾を受けると、その発現を変化させることが知られています。そこで筆者らは、腸内細菌の有無でメチル化レベルが変化した遺伝子の働きを解析しました。すると遺伝子発現レベルが変化した遺伝子の多くが、腸疾患関連遺伝子であることが判明しました。

次に筆者らは、DNAメチル化レベルの分子機構を解明するために、水酸化酵素TET2/3をノックアウトしたマウスを作成し、CNVマウスとメチル化レベルを比較しました。すると、TET2/3ノックアウトマウスにおいてメチル化レベルが上昇しました。また、腸内細菌の有無が、TET2/3酵素の有無と相関関係があることを踏まえ、筆者らは腸内細菌の有無によるメチル化レベルの変化にはTET2/3酵素が関わっているのではないかと考えました。

腸内細菌と腸疾患のさらに詳しい関係が明らかになれば、新しい治療法の一助になるかもしれません。

紹介論文: Ansari, et al., Nature Microbiology 5, 610-619, 2020

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