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温度を感じる新しいモデル:冷たいを感じる神経が温かいを伝える

わたしたちは、日常生活の様々な場面で、「暑い」、「寒い」、「冷たい」、「痛い」、といった外部環境の変化を敏感に知覚し、意識的、無意識的にそれに対応しています。とくに、体温のコントロールは生存のために大変重要な生体防御反応です。外界の温度受容は、手や足などに分布する末梢感覚神経が、温度刺激を活動電位に変換され、その情報を中枢である脊髄や脳へ伝達されることで知覚します。これまでの研究で、末梢感覚神経に特異的に発現するTRPファミリーに属するイオンチャネルが、この温度受容において重要な役割を持つことが明らかになっています。たとえば、TRPV1は43℃以上の熱いという感覚を(論文1)、また、TRPM8は23-26℃の冷たいという感覚を伝えます(論文2)。一方で、「温かい」を伝える受容体はTRPV3, TRPV4, TRPM2などいくつか報告があり、それぞれが独立してはたらくのか、複数の受容体が組み合わさってはたらくのか、詳細なメカニズムは未解明でした。しかしながら、今回新たに、「温かい」を知覚するためには、2つの受容体が必要であること、さらにその仕組みは、温受容体の活性化と冷受容体の抑制という全く逆のふたつの受容体によるものであるという新しいモデルが提唱されました(論文3)。

研究グループは、マウスを用いて、前脚につけた装置の温度変化を認識したときに報酬として水を与えることで、マウス温度変化を学習させました。まず、温かさを感じる受容体であるTRPV1とTRMM2を欠損させた遺伝子改変マウスを用いて実験をおこないました。その結果、これらの受容体を持たなくても、マウスは「温かい」を知覚し学習できることがわかりました。一方で、驚くべきことに、冷たさを伝えるTRPM8を欠損させたマウスでは、温かい刺激を学習できませんでした。つまり、「温かい」を知覚するためにTRMP8が必要だったのです。さらに、野生型マウスにおいて、マウスの体温下で常時活性化され、温度の上昇に伴って抑制される神経系が存在することを明らかにし、この神経系がTRPM8を欠損させたマウスでは消失していることもわかりました。これらの結果から、TRPM8によってある神経の活動が抑制されることが、温かさを伝えるために必要であることが示唆されました。

今回の研究では、温かいという刺激によって、2つの異なる神経がそれぞれ活性化、抑制されるというあたらしい温度感受モデルが示されました。このような仕組みのおかげで、マウスは「温かい」と「冷たい」混同せずに識別できるのです。ヒトでも微細な温度変化を同様のメカニズムで識別しているのか、今後の研究が待たれます。

論文1:Materina et al., Nature(1997)
論文2:McKemy et al., Nature(2002)
論文3:Paricio-Montesinos et al., Neuron(2020)

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